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『日本はなぜ敗れたのか』山本七平著
(前提と乖離した戦略・戦術の悲劇)
山本七平(1921~ )
陸軍少尉としてルソン島で終戦を迎える。
評論家として活躍。81年菊池寛賞を受賞。
著書に、『帝王学』『論語の読み方』
『私の中の日本』ほか多数。
この書は、太平洋戦争中に砲兵少尉としてマニラで
戦い捕慮となった評論家の山本七平が、
「日本はなぜ戦争に敗れたのか、日本人とは何か。」
について考察した日本人論である。
山本は執筆に際し、技術者としてフィリピンに
派遣され捕らえられた小松真一氏の
『虜人日記』を読み解いた。
小松氏の手記を題材に考察を進めることで、
軍事・戦争研究を超えた日本人論が展開され、
現代社会に生きる我々やその企業経営に
大きな示唆を与えている。
ビジネスにおいて、日本企業がグローバルに
勝つための示唆深い教訓も含んでいる。
1.精兵主義の前提と実態の乖離
小松氏が掲げた敗因21か条の中でも多くを占め、
山本氏が特に注目した点に、「精兵主義に代表される
日本軍の戦略・戦術の前提と実態との乖離」が挙げられる。
21か条のなかでは「精兵主義の軍隊に精兵が
いなかったこと。然るに作戦その他で兵に
要求されることは、総て精兵でなければ
できない仕事ばかりだった。」
「大和魂も戦い不利となるとさっぱり威力なし。」
「物量、物資、資源、総て米国に比べ問題に
ならなかった。」など、21か条のうち
全体の4分の1がこの点について言及している。
2.反日感情を招いた悪癖(文化の確立・不変性の不足)
日本は太平洋戦争の大義名分として「大東亜共栄圏」
構想を掲げた。
一方、小松氏は日記の敗因21か条で
「独りよがりで同情心がないこと」
「日本文化に普遍性なき為」
「日本文化の確立なき為」として、
日本の文化的側面の弱さを指摘している。
山本氏も、日本が自己を絶対化するあまり反日感情に鈍感で
あったことがアジアの人々や少数民族などに反日感情を
芽生えさせ、強烈な抗日運動やゲリラに悩まされる原因に
なったと述べている。
文化は元来個別的なものであり行く先々に当地の文化が
あるのが当然である。そこに日本文化を持ち込んで理解を
得るには、日本人一人ひとりが自らの文化を意識的に
再定義、再把握し、現地のそれとの違いを理解して、
現地の言葉で提案できなければならない。
他人の文化的基準も認めず、自らの文化も説明せず、
それを理解しないものに罵詈雑言を浴びせるだけでは、
相手は困惑し反発する。
「自分は東亜解放の盟主だから相手は歓迎し全面的に
協力してくれる」と思いこむ。必ずしもそうではない
現実に遭遇すると「裏切られた」と憎悪する。協力して
くれた現地の人を大切にしない。これらの姿勢も
「独りよがりで同情心がない」と断じている。
3.思想的不徹底
小松氏は日記で敗因21か条の1つに
「思想的に徹底したものがなかったこと」を挙げている。
「思想的不徹底」とは、自らの思想的基盤を
徹底的に考え抜き、批判にも正面から
向き合い、自らの土台とするということがなされて
いなかったということである。
当時の日本では標準的な思想はあっても
体系化されておらず、批判を許さず、
物理的・社会的暴力で律していた。
また、陸軍では白兵戦を戦闘の根本に据えつつ、
その強みが最大限発揮できるゲリラ戦に活用せず、
一大会戦をやろうとした。
自らの本当の強みや拠って立つべきものが
一体何なのかが組織として徹底されていない
ことも各地での惨敗につながった。
4.反省力なきこと
山本氏は、太平洋戦争と官軍が西郷隆盛率いる士族軍を
敗った明治の西南戦争を対比し、日本の反省力のなさを
浮き彫りにしている。
鹿児島で決起した西郷軍は相手がどれほど数や
火力で勝るかを研究しようともせず、
武士である自分達が負けるはずがない、
緒戦の勢いに乗り短期で決着がつくといった前提で
作戦を立てた。
しかし、実際には官軍の圧倒的な火力の前に敗れ去った。
この作戦思想や敗戦に至るパターンが
太平洋戦争の敗戦パターンと驚くほど酷似している
と山本氏は分析している。