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『失敗の本質』野中郁次郎

 

野中郁次郎(1935年~  )日本の経営学者。

一橋大学名誉教授、カリフォルニア大学バークレー

特別名誉教授。2002年紫綬褒章受章。

 分析対象:ノモンハン事件・ミッドウエー海戦

ガダルカナル作戦・インパール作戦・レイテ海戦・

沖縄戦(時系列に挙げている)

 第二次世界大戦前後の「大日本帝国の主要な失敗策」

を通じ、「日本の敗戦の原因と組織論」を組み合せた

学術的研究書である。

 

この書は、太平洋戦争で行われた6つの作戦における

日本軍の失敗を緻密に分析した事例研究書である。

本書で取り上げる指摘の多くが、現代の日本企業が

抱える課題とそのまま重なっている。

半世紀以上前の日本軍を題材とする分析が、

現代の日本組織の課題を鋭く捉えている。

本書は、日本軍の失敗を「戦略と組織」の

2つの側面から指摘している。

戦略上の失敗は、曖昧な戦略目標、

主観的で「帰納的」な戦略などの6点。

組織上の失敗は、人的ネットワーク偏重の組織構造、

学習を軽視した組織など4点に集約される。

 

これから、上述の「戦略上の失敗」

「組織上の失敗」について具体的に見ていく。

 

≪戦略上の失敗≫

 

1.曖昧な戦略目標

 開戦時点で、日本は太平洋戦争の到達目標を

次のように定義していた。

「ある程度の人的・物的損害を与え、南方資源地帯を

確保して長期戦に持ち込めば、米国は戦意を喪失し、

その結果として調和がなされるという漠然たる目標。」

しかなかった。

一方の米国は、日本本土への直接上陸作戦による戦争終結を目標としていた。

「中部太平洋諸島を制圧して前線基地を確保する。

同時に封鎖によって日本の補給線を絶つ。

最終的に日本本土を空襲し、軍事抵抗力を破壊する。」

という明確な戦略を打ち立てた。

  

2.成功体験から抜けだせず

日本軍の戦略は、陸・海軍ともに時代遅れで柔軟性に欠ける

パラダイムに支配されていた。

「戦闘一般の目的は、敵を圧倒殲滅して

迅速に戦勝を獲得するにあり。」と定め、

戦略(グランドデザイン)ではなく、

「戦闘」重視(局地的に勝つ)した。

戦闘の中核となる思想は「白兵戦思想」であった。

白兵戦のこだわりは、西南戦争での薩摩軍の攻撃、

日露戦争での「ニ0三高地」の肉弾攻撃など

過去の戦闘経験から形成されたもの。

陸軍は、この白兵戦のパラダイムを太平洋戦争末期に

至るまで維持し、軍事力の量的・質的劣位もあって

「必勝の信念」という精神主義に傾倒していった。

海軍は、大艦巨砲を主力としたパラダイムを維持した。

これは日露戦争(バルチィック艦隊に圧勝)時の

経験によるものである。

※戦い方は様々な検証・分析がなされていく中で

改善(進化)していくものだが、

日本は当時の戦い方に固執し続けたのである。

 

3.バランスを欠いた戦闘技術体験やシステム思考の欠如

海軍は、「一点豪華主義」で世界最大級の戦艦「大和」

「武蔵」を建造した。

しかし、それ以外は旧式で性能が低かった。

新戦艦と旧戦艦との連携が上手くいかず、

組織戦にならなかった。

 

4.防御の軽視

航空母艦、戦闘機や攻撃機などの多くが、

攻撃力を重視する一方、防御という点では

技術的に見て著しく不備があった。

ギリギリの軽量化で世界最高のスピードを誇りながら

防御に弱かった「零戦」がその典型。

 

5.情報・諜報活動の軽視

日本軍は、無線・レーダーなど通信捜索システムの

整備・運用が米国と比べて著しく劣っていた。

ミッドウエー海戦では、暗号解読により日本軍の行動を

察知した米軍が先制攻撃を通して勝利する。

 

6.燃料補給など兵站の軽視

輸送途中の貴重な兵員や物資経路が攻撃にさらされていた。

結果、作戦遂行に甚大な支障をきたした。

 

≪組織上の失敗≫

 

1.組織目標の達成よりも、組織内の人間関係の重視

例えば、ノモンハン事件では、現地軍の対面を重んじて、

中央部による作戦終結の方針決定が遅れ、

不必要な戦線拡大と資源の浪費につながった。

また、陸軍大学校卒のエリート参謀は、

しばしば正式な指揮命令系統を無視して指揮権に介入した。

このような属人的な意思決定の横行やお互いへの対面への

配慮は、根回しや腹の探り合い抜きには意志決定が進まない

という軍事組織としての致命的欠陥をもたらした。

 

2.複数の軍事組織を「統合するシステムの欠如」

米軍では、陸軍・海軍の参謀組織を統括する統合参謀本部が設置され、これを大統領が直接指揮した。

一方、日本の大本営では陸軍・海軍の協議が整わない場合、

裁定を下せるのは天皇だけであったが、

「天皇は個別の問題に対して、進んで指揮・

調整権を行使することはなかった。」

 

3.学習の軽視

日本軍は、精神力の優位性を強調し、過去に成功した

勝ちパターンを教条的に繰り返した。

一方、米軍は敗退した経験から学び、対応策をどんどん

進化させていった。

「失敗した戦法、戦術、戦略を分析し、

その改善策を探求し、それを組織の他の部分へも

伝播していった。」

 

4.個人責任の追及の甘さ

無謀な作戦を主導した場合でも、

積極論者の過失に対して軍部は寛大であった。

降格措置は、まったくといっていい程、取られなかった。 

 

『失敗の本質』に述べられている日本軍の戦略と

組織特性の課題は、現代の多くの企業でも見られる。

ここで改めてまとめておくと、

■戦略面での日本軍の失敗要因を大きくまとめると、

「戦略目標のあいまいさ」

「戦略のグランドデザインの欠如」

「システム志向や戦闘技術体系のバランスの欠如」

■組織面での失敗要因は、

「組織内の人間関係を重視する情緒的な集団主義」

「複数の軍事組織を統合するシステムの欠如」

「学習の軽視」

「個人責任の追及の甘さ」

 

以上である。